本文へジャンプします

歪められたことば「忖度」

2018年3月20日

正直で忖度なしの体重計

課長さんたまには部下に忖度を

忖度し娘と別に洗濯し

先頃発表された「サラリーマン川柳コンクール」優秀100句からの3句である。「忖度(そんたく)」という、読み方も意味もわからなかった言葉が、ある出来事をきっかけにすっかりおなじみになった。昨年の流行語大賞ともなり、こうして世相を映すサラリーマン川柳にも登場した。

「自分なりに考えて、他人の気持ちをおしはかること」(新明解国語辞典)

とある。他人が「こうしてほしいな」と思うことを察して、そのようにとりはからう。この「他人」とは、自分より目上の人を指す場合が多いようだ。役人が時の権力者の意向を汲んで破格の値下げをし、国有地を払下げたのではないかという疑惑が国会で追及され、以来、この言葉が急に流行しはじめた。

衆目を集めたこの一件では、「忖度」が“おもねり”“へつらい”のような意味で使われている。組織内での保身や出世のため、という下心さえ見え隠れしている。

*人の喜ぶようなことをしたり言ったりして気に入られようとすること。

これを川柳の達人たちがひとひねりして、冒頭のような作品になった。

「最近少しお腹が出てきたんじゃない?」なんて言われて、そっと計ってみる。

「あァ、やっぱり体重計はウソつかない」(ソンタクしてくれるはずはないけど…)

日ごろ職場で上役の顔色ばかり気にしている。そんな立場だから、口に出せないけど、いつも上から目線の課長に、ほんとうはこう言ってやりたい。

「たまには部下の思いをソンタクしてよ!」

そして毎日年頃の娘の冷たい視線を浴びているお父さん。娘に気兼ねして(娘の思いをソンタクして)、少しでも嫌われないようにと、洗濯物まで別にして…。

こんな場合に「忖度」は、ちょっと自虐的に、あるいは理不尽な上司に対する内心の非難、卑屈ではあるが哀愁漂う気遣いとして川柳の世界で笑いを誘う。しかしもともとの意味に「いいソンタク」「悪いソンタク」の2種類があるわけではない。ましてや押し付けられたソンタクなどありえない。ほほえましいソンタク、無神経な他人に求めるソンタク、哀れなソンタクは、いわば“応用編”。

語源からの本来の意味はこうであった。

「指をそっと置いて長さや脈をはかるように、そっと気持ちを思いやること」(漢字源)

紹介した「自分なりに考えて、他人の気持ちをおしはかること」という『新明解』の記述と考え合わせれば、これは対人サービスの極意そのものと思える。ただ支援や介護が、利用者の思いを正しくソンタクしたものになっているかどうかは、厳しい条件がある。

まずそれは仕事だからと、「対価」としてのサービスをおざなりに行うのは論外である。

そして職場での研修や職員教育によって身につけた「顧客満足マニュアル」を意識して、“つくり笑顔”をふりまき、“とってつけたような”念入りのサービスも不十分だ。

これが人としての「思いやり」や押しつけでない抑制されたおもてなし」であれば、はじめてそれは「忖度」にあたるだろう。

しかし残念ながら「忖度」にはすっかりダーティーなイメージが刷り込まれている。

「利用者の思いをソンタクして…」

などと言おうものなら、どんな反応が返ってくるか、「マジすか?」なんて言われそう。

(法澤 奉典・のりざわ とものり)

ページトップに戻る