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優しい顔と冷たい心と

2018年11月16日

 客には気づかれまいと、薄い水割りやハイボールを出す居酒屋。それは客を欺く「水増し」商法の手口だ。そんな店からは、いずれ客は離れていくだろう…少々下世話すぎる例えだが、不誠実な行為が世間から非難されるのは当然だ。

 

 今夏、障害者雇用促進法違反が告発された。こちらは人生を左右する大問題だ。こともあろうに、日ごろは法令順守を国民に求める立場の中央省庁がずらりと“違反者リスト”に名を連ねていた。障害者差別があってはならないと、国民を指導する側が人目につかないところで差別的取扱いをするとは、まるでブラックジョークである。問題の拡がりは深刻で、さすがに国は第三者による検証委員会を立ち上げた。 2017年6月現在で、国の33の行政機関のうち28機関が、雇用率が守られているかのように見せかけるために、障害者手帳を持たない職員や退職者などを障害者として不正に計上していた。その数は計3700人にのぼると報告書は述べている。(10月22日)

 

 しかし「なぜこのようなことが起こったか?」という根本的疑問についての検証委員会の見解には、批判的な見方もある。 <法定雇用率をともかく達成すればよいという「数合わせ」意識が水増しを生んだ。それが各官庁で大規模にさまざまな手口で長年にわたり続けられてきた/ならば不正は故意に行われていた-そう考えるのが自然だ/だが、検証委の報告書は「法定雇用率を充足するため、恣意(しい)的な障害者区分に当てはめるなどしてきた」と、過失による計上と結論づけた。「意図的」を否定する省庁側の言い分を追認した形だ> (10月23日、東京新聞社説)

 

 この検証委員会には当事者は加わっていない。「専門的な知見を持つ方にお願いした」(厚労相)からその必要はないと、当事者の参加要求を認めなかった。しかしこれでは「第三者」の示した公平な見地からの見解とはどうしても思えない。これは悪質な障害者差別だと、なぜ認定できないのか?  

 

 さらにこんな続報があった。事件発覚後いち早く改善をはかろうとしたところまではよかったのだが、財務省が障害者向けに行った非常勤職員の求人の応募資格には「自力で通勤できる」「介護者なしで業務を遂行できる」などといった条件を課す項目があると、障害団体からの抗議があった(10月26日、産経)。さらに「門戸を狭める不適切な応募条件が全国の32都府県で設けられている」と同様の指摘があった(11月2日、毎日)。「これでは健常者を募集しているのかと思うような条件だ。各自治体は速やかに削除すべきで、どうしたら障害の有無に関係なく共に働けるかを第一に考えてほしい」(DPI日本会議白井事務局次長)という当事者の意見が添えられていた。 検証委員会の報告が法に違反した側に甘かったがゆえに、問題の本質が認識されていないと思わざるを得ない。  

 

 相模原殺傷、強制不妊手術、そして今回の法定雇用率水増し…一昨年から続いて世間を騒がしている「障害者をめぐる三大ニュース」である。いずれも障害をもつ人の人権が侵され、無視・軽視された結果とみることができる。  あまり悲観的なことを言いたくはないが、現在、国挙げて地域共生社会の実現、あるいは2020年の東京パラリンピックに向けての取組みとか、障害者を社会の一員として理解し受け入れようとしているその一方で、障害者を非生産的、非効率的存在と見る“排除と選別の思想”が依然存在する。  この「優しい顔と冷たい心」の持ち主は、実に厄介な存在だ。

 

(法澤 奉典・のりざわ とものり)

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