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アクシデントとインシデント

2018年2月19日

近頃わが国が誇る「モノづくり」や産業技術の分野で不祥事や人びとの不安を招くような事態が相次ぎ、その信頼が揺らいでいる。中でも驚いたのは、技術水準の高さの象徴・新幹線N700系「のぞみ」車両で起こった異常事態だ。走行中に異臭・異音がし、検査したら台車に大きな亀裂があったという。もしも時速300㌔超で走る新幹線の台車の一部が走行中に破断したら……私も年に数回は利用しているだけに、想像するだけで背筋が寒くなった。

続報としてその一件が「重大インシデント」に認定されたというニュースが伝えられた。インシデントとは「出来事」の意味から、事故や損失につながりかねないトラブルをさして使われている。

なぜ点検で亀裂が見逃されたのか。なぜ異音・異臭がしたのに3時間も走行を続けたのか、現場からの報告を過小評価したのではないか、「ここはそれぞれの背景を明らかにし、重大事故につながる抜け道をふさいでほしい」と、当然のことだが世論は手厳しく反応した(2017年12月14日、毎日新聞「余録」)。

さて、この“モノ仕事”の世界の緊急事態を、われわれも安穏として傍観していられるわけではない。介護や医療のような“ヒト仕事”は、より直接的に人命や健康に被害を与えかねないリスクと常に隣り合わせだ。事故を未然に防ぎ安全を確保するための視点と取組の重要性という点では全く同様だ。

そこで対人サービスにおける事故を防止するための研修会などでよく話されるのが「ハインリッヒの法則」である。労働災害において、1件の重大事故(アクシデント)の背後には29件の事故、さらに300件のインシデントが潜んでいるとされる。

ここで言っている事故(アクシデント)はよく聞く言葉だ。一般に人がミスや不注意で引き起こした「人災」を指して言う。ただ「インシデント」のほうは耳にする用語だが、正しくはどんな場合に使うべきかはよくわからなかった。意味はどう違うのか。

医療の場合こう使い分けられているようだ。

「病院においては、患者の身に影響を及ぼすこと(ミス)が起きればアクシデント」であり、「患者の身に直接の影響はなかったけれど、その一歩手前ですんだというか、放置しておいたら事故に至ったと思われるケース(ミス)はインシデント」とされている(YAHOO知恵袋)。…なるほど、新幹線の例にあてはめるとよくわかる。あの台車の亀裂は、事故、場合によっては多数の乗客の人命にかかわる大事故に直結する直前だったという意味で「重大インシデント」と認定されたというわけだ。

身近な業界内で記憶に新しいところでは、昨年夏、埼玉県内の通所施設の利用者が送迎車内に放置され死亡した事例があった。この不幸な事件も、発見時間が早く、アクシデントに至る寸前で気づき、せめて重大インシデントのレベルで防ぐことができていたらと、関係者の無念の思いも想像できる。

利用者の生命や健康に危機状況をもたらすような事故はあってはならない。その意味で、サービス提供に関わる人為的災害=事故は「ゼロ」を目指すべきだ。とはいうものの、現実には「事故は起こり得る」ことを前提に防止策を講じ備えておかなければならない。

今回の新幹線の事例から、改めて「インシデント」に注目すべきことを教えられた。もしかして、一括して「ヒヤリハット」で処理している事例の中に、新幹線の「台車の亀裂」、走行中の「異音」「異臭」にあたるような「重大インシデント」は含まれていないだろうか。

(法澤 奉典・のりざわ とものり)

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